なんとも胸のすくような上の写真をご覧いただきたい。眼下に広がる盆地、そしてはるか向こうに連なるは霧島連山。このダイナミックな風景は、通称「矢岳越え」と呼ばれている。北海道根室本線(旧線)の落合駅~新得駅間から眺める十勝平野、JR東日本篠ノ井線の姨捨駅から望む善光寺平と並び、「日本三大車窓」のひとつだ。そんな風景に出会える鉄道の旅として、今回は「肥薩線」を紹介したい。
熊本県の八代駅と、鹿児島県の隼人駅を結ぶ肥薩線は、昭和2年に海岸線が開通するまで鹿児島本線として運行していた。それから長い時を経て、2004年に九州新幹線の新八代駅~鹿児島中央駅間が開通。アクセスは格段に向上した。実際、八代駅から新八代駅まで鹿児島本線に乗り、そこから新幹線つばめで鹿児島中央駅まで行き、さらに特急きりしまで隼人駅へ向かえば、所要時間はおよそ2時間だ。一方、肥薩線(普通列車)を利用すると約5時間。倍以上かかることになる。
しかしながら時間を度外視して、風景を楽しむ鉄道の旅となれば肥薩線も新幹線にはまったくひけをとらない。今では目にする機会の減ったスイッチバックやループ線など、萌芽期の日本の鉄道技術が今なお活かされている肥薩線。古めかしい駅舎が旅情を掻きたて、沿線には温泉などの名所も点在している。かけがえのない自然と、その地に根付いた風土をのんびりと感じさせてくれるのだ。
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